「嗅覚」の機能は、加齢とともに誰でも衰えていくものです。鼻の不調や花粉症の症状などがあれば、「においが感じにくいのは鼻詰まりのせいだろう」と考えがちですし、視力や聴力は健康診断の項目に含まれているものの、嗅覚の検査は実施されていません。
嗅覚低下はアルツハイマー型認知症やその前段階である軽度認知障害(MCI)との関連が示唆されています。健常な人のほとんどがカレーのにおいが分かるのに対し、MCIの人は約70%、アルツハイマー型認知症の人は約35%しか、カレーのにおいが分からなかったという結果になりました。
さらに、嗅覚低下は、加齢によって心身の機能や社会性が衰えて虚弱状態となる「フレイル」や、筋肉量と筋力が低下する「サルコペニア」と関連することも分かってきています。一定の基準でフレイルやサルコペニアと判定された人の約9割に、嗅覚低下が確認されていました。
嗅覚低下を引き起こすリスク要因には、加齢のように避けられないもののほかに、改善の余地がある要因として、喫煙、動脈硬化や糖尿病などの生活習慣病、そして副鼻腔炎をはじめとする鼻の病気があります。
加齢によって嗅覚が衰える主な理由は、においのもとになる分子を感知する「嗅細胞」の新生能力が低下するためだと考えられています。
男性は60歳から、女性は70歳から嗅覚低下が目立ってくると報告されています。
なぜ、男性のほうが嗅覚低下のリスクが高くなるのでしょうか。その理由ははっきりとは分かっていないものの、「女性のほうが料理や化粧品の使用などで、さまざまなにおいに接する機会が多いために、嗅覚が維持されやすいことが考えられます。
嗅覚障害を引き起こす原因としては、「慢性副鼻腔炎」が最も多く、それに次いで、風邪を引いた後ににおいが分からなくなる「感冒後嗅覚障害」と、頭や顔のケガなどによる「外傷性嗅覚障害」が多いことが分かっています。